春嵐に翻弄されて… 〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。


 
 



     



好天に恵まれ、桜も満開にほころぶ中、
厳粛静謐な雰囲気ながらも、初々しい乙女たちの清かな期待や不安をたたえた、
今年度最初の大きな催し、高等部への入学式が執り行われている、
M区のお屋敷町の丘の上に鎮座する某女学園。
名士の令嬢が多々通い、しかもなかなかに才色兼備で自立心も高い卒業生を多く数えると評判の、
それはそれは品のいい花園とされているが、
そんな表向きの評判の陰にて、
もっとえげつない、もとえ、大胆不敵な存在が したり顔にて暗躍してもおり。
暗躍なんて人聞きの悪い、せめて跳梁と言ってほしいと、
ふふんと笑う3人ほどのお嬢さまがた。
金髪白面、華奢で可憐な姿や、品のいい所作をまとう四肢を宙へと躍らせ、
セーラー服をひるがえして疾風のように駆けつけた諍いの場で、
特殊警棒や伸縮自在のポールを操り、
バネの利いたしなやかな肢体を伸び伸びと振るって、
容赦のないケル・ナグールを縦横無尽に繰り出す
お転婆では収まらない活躍を溌剌とこなし。
ひったくりから下着泥棒、サバゲ―目的の不法侵入者や、出来心からの誘拐犯から、
はては窃盗団の悪事に要人の宴への襲撃まで、
特別仕様のアンテナへと引っ掛かった瑣末なものから荒事までも
片っ端から意気揚々とからげてゆく
困った気性と行動力した、恐るべき超人お嬢様たちで。
多少はそんな人らだと知る人もないではないけれど、
まさかに肯定される行動なはずもなく。
毎度毎度叱られながらも、ついつい自分たちの物差しと感受性を優先し、
今日も今日とて何やら怪しき火種へと近づきつつある彼女らである模様。

 『何で…スカート、セーラー服なんですか?』
 『シマダ、久蔵様ですよね?』

入学式の受付最終当番を担当していた彼女らのところへ、
何処か不安そうに訪のうた一人のお嬢さん。
紅ばらさまこと、三木さんちの久蔵さんへ何だか妙な声を掛け、
そこからピンと来たものを好奇心に任せて検索し始め、
一体何が起きているものか、勝手にそして鮮やかに即妙な正解を導き出して。
それが正解であったればこそ、彼女が本来行動を共にしていた“島田久蔵くん”を学園内に誘導し、
自分たちがいかに規格外の女子高生か、実証して見せたようなもの。
そうという段取りさえ見透かして、

 『私どものような年端のゆかない婦女子を頼るとは、
  余程に切羽詰っているか、逆に大した事態ではないからなのか。
  一体どちらなのでしょうね。』

挑発返しとも取れそうな云いようで どういうおつもりかと問うたところ、

 『回りくどい話はよそう。
  貴女たちがどれほど頼もしいかは知っている。
  そこで図々しくも足場に利用させていただくことにした。』

島田さんちの久蔵くんは淡々とした声音でそうと告げ、
それぞれに個性的な美少女3人へ、
さっきまで着ていた制服から移したのだろう、
トレーニングウェアのポケットから黒い皮革製の小さな手帳を取り出すと、
それをぱたりと開いて見せる。
縦の上下に開けばメダル付きの警察手帳だが、彼が開いたのは横へ。
そこには写真と、それから今時には希少な筆書きによる、何やら流麗な一文が連ねてあり。

「見せたところで通達がない人へは意味が判らぬことだろうが、
 これは俺が護衛専任の一門の人間だという証。
 そちらの検索上手な貴女、このコードで何か気がつかぬか?」

「…そうですね。その特殊なナンバリングは、
 公安課の要人警護を任じられた人たちに掛けられてるものですよね。」

問われた平八がテーブルに置かれたタブレットの表面を指先で撫でる。

「しかも、見たことのない初期ナンバー。
 その始まりからの山のような案件の中で殉じてしまわれた人たちのもの、
 欠番になってる番号なのだと思い込んでましたが、
 そうか、専任という特別な人たちに割り振られていたのですね。」

「…ヘイさん、アタシらにも判るように話して。」

彼が提示したのが身分証のようなものだということや、
一般には知られてない代物だが
そこに記されたナンバリングは判る人には判る特殊なものだということ。
そして、何ということか、それが“判る”恐るべきひなげしさんだった
…ということまでは何とか判ったが、

「護衛専任の一門って何?」

どう見ても自分たちと同じ年頃の青年、間違いなく未成年だろうに
時にその身の自由を束縛するような、人の権利を扱うような警察関係の任務が降るはずはなく。
護衛となればその身を危険にさらす任務で、尚のこと、子供へ就かせるはずもなく。
だのに、その証書はこの高校生の彼を何かしらの立場や身分であると証明しているという。

「信じてくれぬでも構わぬが、
 俺は代々 政府要人への護衛を任じられてきた一族の末裔だ。」

暗殺者に狙われている存在、疑獄事件へ発展しそうな陰謀の渦中にある存在などなど、
代々の練達が人知れず守護してきたと言い、
そこで生まれて育ったことで秘密を抱えている存在を、
いちいち口外無用との誓約書を書かせて世間へ出し、その実 監視をつけていちいち縛るより、
その手腕を生かして飼った方が、勝手も通じていて利もあってよかろうと、
この現代の世となってもいまだ、そういう家系が現存しているのだと。
やはり淡々と語った彼であり。

「……。」

そんな極端な言いようを説明として挙げられたお嬢さんたち、
はあ?、何を妄想ぽいこと言い出すかな厨二病かと引くかと思いきや、

「御庭番の末裔さんとか。」
「日本でも大なり小なりクーデターは起きておりますもの、いないと否定はできませんわ。」

直毛金髪の少女が鹿爪らしいお顔で呟き、
赤毛の少女がうんうんと頷く傍ら、

「……。」

自分と瓜二つならしい彼を見やっていた紅ばらさんが、むずがゆそうな顔をする。
何かしら忘れてはいないかというものが記憶の奥底にあるからで。
それは彼女らに特有のあの記憶、戦場を駆けた侍だったというアレではなく、

 “あの時、タジマ殿の傍に居たのは、もしかしてこやつだったのではないか?”

彼女が属すバレエ団の定例公演の千秋楽。
どういうわけだか、異様なくらいに練達の男性にしっかと庇われて、
そんな人が紙一重でさばいた刺客に襲われかけた一大事。
ところが、のちに警察関係者の島田へ問い合わせても、
そのような人物はいない事件も届けられてないとのお返事と、
そこから先へは踏み込んじゃいけないとする領域があるという話を聞かされて。

 “……。”

それへと関与する人物なのなら、
そんな突拍子もないことを語られても頭から笑い飛ばせはしないと。
何と3人ともが久蔵くんの言いようをすんなり飲んだから、
それもまた見ようによっては奇異なこと。
まま、最初に見せられた身分証の下りで、間接的ながら公安関係の人らしいというのは判ったし、
何より、

「そちらのお嬢さんは、神木代議士のお嬢さんでしょう?」

平八が視線で差した、警護対象らしき少女がハッとし、
久蔵くんと視線を合わせてからおずおずと頷いて見せる。

「わざとらしい護衛を付けるのも仰々しい。
 そこで未成年のあなたがついてるってところかな?」

身の危険といってもとある要人への頸木(くびき)、
傀儡にするための人質とされることを、
つまりは誘拐を警戒されているお嬢さんってとこかしら。
そんな風に紡いだひなげしさんへ、
七郎次がポンと手を打ち、キョトンとする紅ばらさんへあのねと小声で説明を始める。
それをちらと見やってから、久蔵くんが言葉を継いで言うには、

「神木議員から委員会へ提出されたとある法案が
 決議されると困る手合いが圧力をかけているのだ。」

国際社会に一石を投じるようなとか、それほどまでの大きなものではなく、
風営法がらみの 既存の法への改正法というやつなのだが、
これまでの曖昧な解釈をただす方向になっているがため、
それが通ると甘い汁を吸えなくなる層があるらしく。

「風営法ですものね、どんなビックリ箱が持ち出されるか、そりゃあ戦々恐々にもなりましょうよ。」

情報関係ならお任せのひなげしさん、
既にそこまで浚っていたらしく、やれやれと肩をすくめており、

「風営法?」
「ええ、大雑把に言えば、
 色っぽいお姉さんを配して性的なサービスを提供するとか、
 そんな空気を醸しやすい場を設ける商売は、
 普通一般の飲食業やサービス業と同じ土俵に置くわけにはいかんとする法律です。」

例えば、ガールズバーというのがいっとき流行ったのですが、
これはあくまでもバーテンダーさんが女性だってだけなのが基本。
お姉さま方はあくまでもカクテルを作るのみでいなきゃいけないのに、
だのに、お客様とのおしゃべりもさせる店が後を絶たずで問題になりました。

「それだと“ホステス”にあたるので、風俗店として届けなきゃいかんのです。」

はたまた、ソシアルダンスを楽しもうという由緒正しいホールが、
飲食も出来るのならばそこいらのクラブやディスコと同じという扱いとなりかかり、
男女が身を接して踊れる場がある以上、風俗店扱いになって深夜営業は出来ないとかいう規制がかかり、
一方で、似たような娯楽の店であろうビリヤード店は
スポーツだからと規制がかかってないのに不公平じゃないかと、
それはおかしくないかという抗議が殺到しもしました。

「昔はダンスホールで
 薬物売買や売春の客引きが行われていたから、だそうですが。」

それにしたって、そういう空気の店かどうかをまずは見ろよと思うところですよね。
そんな噴飯ものな実例が多々あったことから、
許可の降りた一部のダンスホールなどは例外扱いになってもいるそうですが、と。
それを女子高生が語るのもどうかという話を引っ張りだしてから、

「決議後ならば、
 そんな連中への警戒や対処に警察も出て来れるのだが、その前だと微妙でな。」

久蔵くんがそうと言う。

「ああ、立法への偏った支援とか言われかねぬのですね。」

それで、決議が下りて決着がつくまでというリミットつきのかくれんぼ。
何しろ、追われる側としてはどんな級のものが直接出てくるかが判らぬ話。
こういった背景事情をまるきり知らぬチンピラが、写真だけ渡されて攫って来いなんて言われていたら?

「まあ、そこまで極端な手配はさすがにされてないでしょうが」

それでもお嬢さんの身に何があってもしらないぞなんて脅迫状が寄越されては、
親御としては気が休まらぬだろう。
そこで、要人警護を昔から請け負っている一門の、
されどまだ年弱な見習いだという彼が、
このお嬢さんの身辺警護を請け負っているという。

「実家が怪しい集団からの監視をされているのでという陳情があって
 それでと声掛けがあったのだが。」

巧妙な策で連れ出しはしたが、
車での移動は却ってフラグ立てているようなもので危険だから
学生が多い中へ紛れた方がいいと電車で移動していたものの、
JRが人身事故のためにただいま遅延中だとか。
はっきり言って動いていないので、隣町のR市まで行けなくなった。

「R市?」
「俺の一門の足場がある。
 そこへ匿えば、誰へもどこへも構いなく万全の手が打てるのでな。」

きっと難攻不落のお城か忍者屋敷いみたいな家で、
そこへ匿えば大丈夫なのよと、
こしょこしょと女子高生ならではな(?)私語が挟まっての納得し合ってから、

「結婚屋に送らせる。」

紅ばらさんがうんと大きく頷いたものの、
そして学園を包囲中の追っ手は俺たちで排除するという決意の下、
綺麗な拳を握ったものの、

「それなんですがね。」

平八が先程 周辺の防犯カメラへの情報インストールをした際、
何かしらを察知したらしいタブレットを手に、
ちょっぴり深刻そうな顔をして見せる。
近隣哨戒用のチェックが反応したらしく、

「アラートは赤と紫。災害指定のとレベル設定は一緒ですから、甚大な代物ということです。」
「赤って。武装の重さ…。」

何か言いかかった七郎次を軽くかぶりを振って黙らせて、
同坐する彼へ気づかせぬ対処とし、

「いつもの伝で駆け回って振り回すとするのはちょいと危険かもしれません。
 榊先生に近所へ車を出してもらって、そこまでを行くというポーズを取りましょう。」

「危険?」

小首を傾げる白百合さんと紅ばらさんだったが、

 “いつもの伝?”

久蔵くんの方はそっちへ意を留める。
そりゃそうだ。こんな物騒な話へ怖がりもしないで参与してくるとは、
普通の女子高生とは思えない。
いや、それはある程度把握していたものの、
よほどに実情が判っていないか、それとも…?

「何を構えているのか知らぬが、貴女方は此処から出ないように。」
「え〜〜?」

足場にさせてもらっただけ。
それと、三木家の令嬢という、自分に似ている存在の姿を借りようというもので。
当然素人の彼女らはコトが済むまで此処での仮拘束扱いとする。
不当な扱いと責められるだろうが、身の安全を最優先するならそれが最善。
さすがは本職ということか、
いつも大人たちが口を酸っぱくして言うことを、こちらの彼は実戦でやって見せんとするつもりらしく。

「な…。」

何を勝手なと言いかかった平八の口を封じるかのように、
からりと、彼女らの居る教室の窓が開き、
そこから彼女らと同じくらいの年恰好の青年がひょいと入って来る。

「え?」
「だ、誰です?」

白百合さんの前へ紅ばらさんが立ち塞がり、平八が誰何したその青年、
ようよう見やればやはり都立高校の制服姿で、
ふふと笑うと久蔵くんを見やり、その視線の下へと跪いて見せ。
そんな彼の代わりにやはり久蔵くんが口を開いて、

「単なる侵入だけでいいのなら、技術さえあれば出来ぬ仕儀じゃあない。
 防犯カメラに引っ掛からぬやりようはいくらでもある。」

ハッとした平八がタブレットで確かめたが、

「…ホントだ、引っかかってない。」
「だが、今回は此処へ一旦潜入し、そこから出てきた存在だという攪乱が必要なのだ。」

この時間となっては法案の決議はもはや時間の問題、それほど難のある話でなし、あっという間に可決と運ぼう。
ただ、このような卑劣な脅迫がこれからも常套とされては困りもの。
なので、似たようなことをしかねぬ犯罪組織への見せしめもかね、
じりじりとした寸伸ばしという悪あがきのような時間稼ぎで相手の手足を引っ張り回し、
さあ公安も動ける状況となった途端に反転して躍りかかり、一網打尽とする段取りだそうで。

「つまり、いかにも怪しい動きをするこちらなればこそ、未練がましく諦め悪くついてくる連中を、
 実はちいとも脅威だなんて思ってないあなた方が取っ掴まえるというシナリオなのですね。」

厭味を含めての、そんな言いようをした七郎次へ、
特に感じ入るものもないまま“うん”とうなずいてくれた久蔵くん。

“相変わらずなんだからなぁ、次代様。”

あとから窓から入ってきた青年がその内心で苦笑をしておれば、

「久蔵殿が行動しているとするならシチさんが同行しないと不自然ですよ?」
「何故だ。」
「寡黙が過ぎて意思の疎通ができないからです。」
「…何でえっへんと偉そうになっているのだ。」

次代様とそっくりな美少女が、何故だか鼻高々な様子なのへ、
危なく吹き出しそうになった、イブキくんだったそうな。





 to be continued. (17.04.13.〜)





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 *途中で紅バラ様が思い出したのは、
  『
サマーエンド・ラプソディ
  『
本日はお日柄も良く
  で、かかわり合った人たちです、悪しからず。
  何年間 高校生でいる人達なやらですな。(苦笑)
  そして、次男坊がいっぱい喋っております。(大笑)
  明日は肺活量の使いすぎという過労で起き上がれないかもです。こらこら

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